越前の海から食卓へー定置網漁と海の恵みー

越前の海から食卓へー定置網漁と海の恵みー
波

日本海に面した福井県福井市茱崎町。この地には、豊かな海とともに生きる漁師たちの知恵と技術が息づいています。その代表的な漁法のひとつが「定置網漁(ていちあみりょう)」です。春から秋にかけて多種多様な魚が獲れるこの漁法は、福井の食文化を支える大切な存在です。

今回は、定置網漁の魅力とその恵みがどのように私たちの食卓に届くのかをご紹介します。

越前海岸と海の個性

越前海岸一帯の沖は暖流と寒流のぶつかる海域で、栄養素が豊富な冷たい水と表層の温かい水が複雑に混ざることで植物プランクトンが豊富になり、エサの豊富な漁場となっています。魚の回遊ルートに近く、冬は「越前がに」で広く知られていますが、春から秋にかけて茱崎沖では真鯛、ブリ、さば、アジ、サワラ、イカ(アオリイカ・ケンサキイカ)などが水揚げされます。

特筆すべきは、潮の流れが速く栄養分の豊富な日本海で育った魚たちの身の締まりと脂ののり。市場でも高評価を得る魚介類が、日々この地から出荷されています。

「定置網漁」とは?──魚にやさしい、海にやさしい

定置網漁は、古くから伝わる持続可能な漁法の一つです。沖合に大型の網を固定し、魚の通り道に設置することで自然と魚が網に入ってくる仕組みです。漁師が仕掛けた網の構造は複雑で、魚が網の中に入り込むと自力で戻れなくなるよう工夫されていますが、網そのものは固定された構造のため、魚を追い回すような漁法とは異なります。

(茱崎漁港:福井県 各地の漁港(福井市) | 福井県ホームページより引用)

この漁法には大きなメリットがあります。まず、魚にストレスを与えにくいため、鮮度が良いまま水揚げされる点。次に、サイズや種類によっては網から放流することも可能であり、資源管理の観点からも注目されています。環境負荷が少なく、未来の海と共存する漁法として、今改めて評価されているのです。

何が獲れる?茱崎の定置網漁で水揚げされる魚たち

茱崎の定置網漁では、実に多彩な魚がとれます。代表的な魚をいくつか紹介しましょう。

  • 真鯛(マダイ):春頃に多く獲れ、身は淡泊ながら旨みがあり、刺身や塩焼きはもちろん、頭や背骨のあら炊きといった和風の料理も、カルパッチョなど洋風の料理にも合う、おいしい魚です。
  • 鰤(ブリ):晩秋から冬にかけて脂がのり、寒ブリは特に人気。刺身、ブリ大根、照り焼きなどで楽しめます。
  • 真鯵(アジ):刺身やたたき、なめろうなど生食もよし、火を通して食べる塩焼きやアジフライにしてもおいしいお魚です。
  • 鰆(サワラ):魚辺に「春」とありますが、冬から春先にかけての海水温が低い時期がおいしいお魚です。西京焼きが定番ですが、炙ったたたきもおいしいです。
  • アオリイカ・ケンサキイカ:水揚げされてすぐの時は身が透き通っていてコリコリした食感が楽しめ、1日ねかせた時はねっとりとした食感に変わり甘さも増します。違ったおいしさを味わえるのも楽しみの一つです。天ぷらや、バターで炒めて食べるのもおすすめです。
  • マグロ(まれに):回遊ルートによっては、思いがけず大型のマグロが入ることもあり、まさに海からの贈り物です。

季節によって漁獲される魚種は変わるため、いつ訪れても新鮮な発見があります。

「越前水産」の取り組み──海の恵みを届ける拠点

定置網漁で水揚げされた魚は、越前水産が運営する惣菜・弁当店である「totobase」や、系列店の和食レストラン「越前がに・旬のお料理 らでん」で提供されています。

和食レストラン「越前がに・旬のお料理 らでん」

新鮮な魚をその場で調理し、贅沢な定食や海鮮丼でお魚を楽しめる人気のお店です。冬季は「越前がに」を中心としたご提供が多いのですが、春から秋にかけては定置網で水揚げされた魚を使ってお出ししています。お昼の時間帯には「鮮と炙りの 291丼御前」・「本日のお魚御膳」などがあり、夜の時間帯ではコース料理、一品料理でお召し上がりいただけます。

お惣菜・お弁当テイクアウト専門店「toto base」

地元の魚を気軽に楽しめるお弁当を提供する「toto base」では、日替わりで地魚を使ったおかずが並びます。真鯛の塩焼きや、サワラの西京焼き、アジフライなど、魚ごとの魅力を引き出した丁寧な味付けが人気です。冷めてもおいしい魚料理は、忙しい日常にも寄り添ってくれる存在です。

越前の海を次世代へ──漁と食の未来

茱崎町の定置網漁は、単なる漁業ではありません。それは海と共に生きる「文化」であり、とれた魚を無駄なく活かす「暮らし」そのものです。

魚食離れが進む現代において、子どもたちや若い世代に新鮮でおいしい地魚を届けることは、未来への大切な橋渡しでもあります。

定置網で獲れる魚たちと、それを活かす人々の手──。越前の海とともに生きる営みは、今日も静かに、そして力強く続いています。