春に潮風とともに揚がる甘えび、灼ける夏に殻を開く岩ガキ、実りの秋に踊る新子アオリイカ、雪灯りの冬に湯気を立てる越前がに――越前漁港は季節が移るたび、水揚げ台の色も香りも一変します。旅程を組むときも、今夜の献立を思案するときも、「いまここでしか味わえない一皿」を知っているかどうかで、思い出の深さはまったく違ってきます。このガイドでは、春夏秋冬それぞれの主役となる海産物と、そのいちばんおいしい食べ方をまとめました。
シーズン早見表
季節 | 代表的な旬の海産物 | 漁期・解禁めやす |
春(3–5月) | 甘えび/トビウオ/サザエ/サヨリ/マダイ | 甘えび:3–6月、トビウオ:5–7月、サザエ:春〜初夏など |
夏(6–8月) | 岩ガキ/アジ/親アオリイカ/越前ウニ/カワハギ | 岩ガキ:6–8月、アジ:5–7月、ウニ:7/20〜8月上旬 |
秋(9–11月) | 新子アオリイカ/サワラ/甘鯛/ノドグロ | アオリイカ:9–11月、サワラ:10–12月 |
冬(12–2月) | 越前がに/ブリ/アンコウ/マダラ/水ガニ | 越前がに:11/6〜3/20、水ガニ:2/19〜3月中旬 |
春(3–5 月)
桜前線が海沿いまで降りてくる頃、越前漁港にも“春の息吹”が届きます。凛とした冬の潮がやわらぎ、朝日に照らされた水面には透き通る甘えびや初鰹ならぬ初トビウオ――瑞々しい生命のきらめきが跳ね返ります。ほろ苦い山菜と合わせれば、舌の上にも春爛漫。さあ、潮風が運ぶ一番乗りの旬を味わいに行きましょう。
旬の食材:甘えび
ぷりぷりの身ととろける甘さはまさに“海の生キャラメル”。水揚げ直後に船上凍結されるため鮮度抜群です。刺身なら頭を味噌汁に回し、旨味を一滴も逃さないのが漁師流。
- おすすめ料理
- 甘えびの昆布締め — 昆布のグルタミン酸で甘味倍増
- 甘えびアヒージョ — 春野菜(グリーンアスパラ)と好相性
- 甘えびの昆布締め — 昆布のグルタミン酸で甘味倍増
▸ ほかの旬魚
魚介 | いちばんおいしい時期 | ワンポイント |
トビウオ | 5–7月 | 開き干し→冷汁で“夏先取り” |
サザエ | ~6月 | 網漁同行体験が人気。つぼ焼きだけでなく“肝バター飯”も絶品 |
サヨリ | 4–5月 | 透き通る身は軽く昆布〆にして春酒の肴に |
夏(6–8 月)
海辺に真っ白な入道雲が湧き上がり、潮の香りが熱を帯びるころ、越前漁港は“夏色”に染まります。殻を割れば冷たい海水と甘いミルクがほとばしる岩ガキ、たった二週間だけ姿を見せる宝石のような越前ウニ、そして漁師が夜明け前に引き上げる銀鱗のアジ――盛夏ならではの美味が次々と競り場を彩る季節です。火照った身体に、海から届いたばかりの恵みをキリッと冷えた地酒とともに。
旬の食材:岩ガキ
素潜り漁で獲る天然“夏ガキ”。殻を開けた瞬間に溢れる海水ごと味わうのが通の食べ方です。レモンもいいですが、福井の夏酒(辛口純米吟醸)とのペアリングは別格。
旬の食材:越前ウニ
バフンウニ漁は 7月20日解禁、わずか2週間。海女さんが手摘みした卵巣を塩だけで漬け込む「汐ウニ」は日本三大珍味のひとつ。100 g作るのに100個分のウニを使う贅沢さです。
- おすすめ料理
- 岩ガキの冷製炊き合わせ — だしゼリーをかけて前菜風
- 汐ウニの冷製カッペリーニ — トマトの酸味でコクが際立つ
- 岩ガキの冷製炊き合わせ — だしゼリーをかけて前菜風
▸ ほかの旬魚
魚介 | いちばんおいしい時期 | ワンポイント |
アジ | 5–7月 | 氷水で締める“港茶漬け”は猛暑日のまかない |
親アオリイカ | 〜7月 | 刺身→炙り→肝バターソテーの三段活用 |
カワハギ | 夏 | アン肝級の濃厚キモは冷酒泥棒 |
秋(9–11 月)
空がいっそう高く澄み、潮風にほのかな金木犀の香りが混じり始めると、越前漁港は“実りの秋色”へと衣替えします。朝まだき、鏡のような水面を切り裂いて揚がるのは、とろりと甘い新子アオリイカ。続いて競り台に並ぶのは、脂ののったサワラ、ふくよかな甘鯛、そして白身なのに頬張れば舌の上でとろけるノドグロ――秋刀魚とはひと味違う、北陸ならではの“秋の主役”たちです。炙りで香ばしく、松笠焼きでパリッと、沖漬けでねっとり――火を入れるたびに立ちのぼる香りが、ひんやりとした空気の中でいっそう食欲をかき立てます。
旬の食材:ノドグロ(アカムツ)
「白身のトロ」と称されるほど豊かな脂と甘みが魅力。水揚げ直後は刺身でねっとり、軽く一夜干しにして炭火でじわ焼きにすれば、脂がジュワッと滴って香ばしさが倍増します。煮付けにすると煮汁までごちそう――最後は雑炊にして余すところなく堪能しましょう。
- おすすめ料理
- ノドグロ塩炙り — 皮目を焦がし過ぎない中火遠火がコツ
- ノドグロと松茸の土瓶蒸し — 秋の香りと“白身のトロ”が相乗
- ノドグロ塩炙り — 皮目を焦がし過ぎない中火遠火がコツ
▸ ほかの旬魚
魚介 | いちばんおいしい時期 | ワンポイント |
アオリイカ | 9–11月 | 柔らかい身は“沖漬け”でねっとり甘く |
サワラ | 10–12月 | “寒サワラ”は表面だけ炙ると脂が立つ |
甘鯛(グジ) | 9–12月 | 鱗ごと揚げ焼きにして松笠焼き |
冬(12–2 月)
雪まじりの潮風が肌を刺し、漁火が白い息を照らすころ——越前漁港は一年で最もドラマティックな季節を迎えます。競り場に列をなすのは、黄金のタグを誇らしげに揺らす越前がに。甲羅を開けば湯気とともに立ち上る濃厚な香りが、凍えた指先まであたためてくれる冬の勲章です。脇を固めるのは、脂の乗りが極まる寒ブリや水ガニ、雪景色の鍋を彩るアンコウやタラの白子——冷たい海で育まれた旨味が、まるで結晶のように凝縮される季節。
旬の食材:越前がに(ズワイガニ雄)
11月6日解禁、3月20日まで。黄色いタグが本物の証です。蒸し・茹ではもちろん、甲羅酒で香りを閉じ込めるのが寒夜の至福。
▸ ほかの旬魚
魚介 | いちばんおいしい時期 | ワンポイント |
ブリ(寒ブリ) | 11–2月 | 〆ブリ寿司で脂のり最高潮 |
アンコウ | 11–2月 | “吊るし切り”実演を見る鍋ツアーが人気 |
マダラ | 冬 | 白子ポン酢は日本酒熱燗と |
まとめ
越前漁港の海は、季節が巡るたびに甘えびのとろける甘さ、岩ガキの濃厚なミルク、脂ののったのどぐろの甘味、越前がにの凝縮した旨味といった主役を次々に送り出します。旬のカレンダーを手元に置けば、食卓に並べる魚介を「いま最も味が乗った一品」から選び取ることができ、刺身、炙り、煮付け、鍋──調理法ごとの魅力も最大限に引き出せます。四季それぞれの恵みを知り、味わい方まで意識することで、日常の食事がまるで料亭のように格上げされるはずです。越前の海が届ける“旬のリズム”に耳を澄ませ、年間を通じて最高の一皿を楽しみ尽くしてください。